「第二言語習得研究」と呼ばれる学問をベースとしたトレーニングにより、90日間で劇的に英語力を伸ばす英語のパーソナルジム「ENGLISH COMPANY(イングリッシュカンパニー)」。受講待ちが600名を超え「入りたくても入れない」と評判です。
そのサービスを提供するのが株式会社スタディーハッカー。京都で大学受験向けの予備校からスタートした会社ですが、これほどまでに英語学習者の心をつかむサービスの誕生の裏側には何があったのでしょうか? 同社の代表取締役である岡健作氏にインタビューを行いました。
ENGLISH COMPANYについて
——このサービスは喜んでもらえるという確信があったのでしょうか?
そうですね。もともと予備校のころから、第二言語習得研究をベースとした英語指導を行ってきましたし、そこで実績もでていました。
3ヶ月で一気に成績を上げる短期集中講座も予備校で生まれ、成果のあったものです。ですから、それを社会人向けに展開すれば結果はでると思っていました。
——予備校で英語指導をされていたころのエピソードを教えてください。
京都で最初に作った予備校では、当初から「受験英語に第二言語習得研究の知見を取り入れて、受験勉強を効率化する」ということを目的のひとつとしてスタートしました。
意気揚々と立ち上げたものの、設立時は「よくわからないことを言っている塾がある」という感じで、あまり反応がよくなかったんです。
最初に集まった生徒はわずかに5人だけでした。
転機になったのは設立の2010年の夏に、「3ヶ月で英語の成績を一気にあげる」ということを目的とした短期集中プログラムリリースしたことです。実際にわずか3ヵ月で偏差値が20ほど上昇した生徒がでて、ちょっとした評判となり、次第に生徒数が増加していきました。
その講座以外でも、偏差値40くらいだった生徒さんが京都大学に合格するとか、偏差値が100を超える生徒さんが出てくるとか、そういった実績がいくつも出てきました。
とはいえ、大学受験にはどうしてもきまった形があるわけです。いわゆる「受験英語」と呼ばれるものですね。どうしても、その形にそって指導を行う必要がありました。
一方で、第二言語習得研究というのは言語習得そのものを扱うものなので、受験英語に合わせようとするとどうしても不自由さを感じていました。
そのころから、この第二言語習得研究をベースとしたトレーニングの成果は、より一般的な、たとえば社会人向けのスクールでこそ本領が発揮できるのではないかと感じていました。
——ENGLISH COMPANYのサービスを開始した当時、苦労されたことはありましたか。
予備校で展開していたサービスをベースにしていましたから、立ち上げでものすごく苦労したということは実はあまりありません。
ただ、第二言語習得研究はあくまでも人がどのように第二言語(外国語)を身につけていくのかということについての「理論」です。教え方やメソッドそのものではないのです。
ですから、第二言語習得研究でわかっていることをどのように教授法に落とし込んでいくのか、理論をベースにどのようなメソッドを作るかという点は、予備校時代に試行錯誤しました。
大学の先生に実際の予備校の授業を見てもらったり、研究室に相談にお伺いしたりとか、何度もご相談をしていました。
——生徒さんはすぐに集まりましたか?
オープンしてすぐ数百名のお問い合わせがきました。当時、短期集中でパーソナルトレーニングを行う英語コーチングを提供しているところはありませんでしたので、これほどニーズがあったのかと少し驚きました。
——「第二言語習得研究」とはどのようなものか、簡単にご説明していただけますか?
人が第二言語いわゆる外国語をどのように習得するのかというプロセスやメカニズムを研究する学問領域です。
言語学や教育学、脳科学のような様々な学問を含んだ学際的なもので、1960年代くらいから盛んに研究されています。
言語習得のプロセス・メカニズムが分かってきたことから、どのように学習をすれば効率良く学びが進められるのかということについてもたくさんのことがわかってきています。
——第二言語習得研究をどのような形でメソッドやプログラムに応用しているのでしょうか?
主に、学習者の英語習得における課題の正確な発見、および発見された課題に対するアプローチの決定に応用しています。今どこに課題があるのか、どこでつまずいているのかを見つけるというところですね。
それが分かれば「ここでつまずいているのであれば、こういうアプローチをすれば効果的ですよね」ということが自ずと分かってきます。
課題発見アセスメントのメソッドを開発して、それに基づいて各トレーナーが学習者それぞれの課題を診断しています。
ENGLISH COMPANYのトレーナーについて
——トレーナーは全て日本人ですが、日本人が英語を教えるメリットを教えていただけますか?
日本人が英語を教えるメリットというよりは、日本人だから良い、ネイティブだから良いというわけではありません。英語の教え方や言語習得に精通しているかどうかが大切なことです。例えばそれがネイティブであっても教授法に精通しているということであれば十分に意味があると思います。
一方で、「ただ英語が話せるだけ」という人は、教え手としては専門性がないわけですから、その人が日本人であってもネイティブであっても十分に教えられるとは考えていません。
日本語ができるからといって日本語を教えられるわけではないのと同じように、英語ができるからといって英語を教えられるわけではありません。
日本人講師でも英語が出来るから、あるいは自分が英語を身につけたから英語を教えられると言っている人がいますが、自分が英語を身につけたということと英語を教えるスキルがあるということは、似て非なるものだということです。
ですから、やはり専門的な知識やスキルを持った人が教えるということに意味があるのです。
——2019年4月に31名のスタッフが新たに入社されたようですが、トレーナーとして採用された方は何名くらいですか?
25名です。4月は教育業界にいた方が年度の変わり目で転職するケースが多く、経験者が多いのが特徴です。
応用言語学を国内外の大学・大学院で学んでいたり、フルブライト奨学生として留学していたり、最近は入社するトレーナーの専門性が大きく向上しています。
また、ありがたいことに求職者からの評価が高まっています。先日の話ですが、応募いただいた方に志望理由をお聞きしたところ、「転職したいと教授に相談したら、ENGLISH COMPANYは専門性が高いから、あなたみたいな人は行ったらいいんじゃないですか」と言われたからというものでした。
twitterなどのSNSでも「ENGLISH COMPANYに入社することになった」と投稿した人に対し、周りから「いいな」「自分も行きたいと思ってたんだよね」みたいな声が出てきたりしています。専門性にこだわってやってきてよかったなと感じています。
——御社の存在がなかったら、それまで専門スキルを持った方が転職される場合、どういったところに入社されたりしたんでしょうか?
普通に英会話学校に行く、学校の先生として働く、あるいは大学などで教えるといったケースが多いと思います。
しかし、専門スキルを活かせるかどうかというとなかなか難しい場合が多いのです。
一般の高校に教員として就職して、海外の大学院で身につけてきた応用言語学をベースにしたような教授法を十分に使って活躍ができるかというと、なかなか難しい。誰が悪いということではなく、そういう状況になっていないのですね。
もちろん、そういう状況を変えていくために頑張っている方もいらっしゃいますが、すぐそのスキルを使いたいという方にとってはひとつの大きな選択肢になっていると感じています。
——トレーナーとして採用されるために最も重要なスキルはなんでしょうか?
やはり専門的な知識や英語力ですね。これは大前提です。それから、トレーナーとして、先生としての資質みたいなもの。生徒さんに成果が出ることをほんとうに嬉しいと思うタイプの人かどうかということです。
一般に、英語を身につける理由はたとえば「海外で活躍する」とか、「外国人と仕事をする」だとか、そういうものが多いと思います。一方で、英語の先生という職業は、英語を使う仕事の中ではかなり特殊です。
日本人相手に英語を教えるのですから。これは教えるのが好きな人でないとなかなか難しいことだと思うのです。
——専門的な知識とは、具体的に第二言語習得研究をされていた方でしょうか?
そうですね。そういう方もいらっしゃいますし、その周辺領域ですとか、学校や予備校での現場で教えるお仕事の経験を積んできたというものがおります。
教授法や理論についてのきちんとした知識をお持ちであったり、経験があることは大きいと思います。
ENGLISH COMPANYのトレーニングの中では、「コーチング」と「ティーチング」の両方を行っていきます。コーチングはティーチングの経験がとても活きるんです。
どういうところで人がつまずくのか、こういうつまずきをした時にはどういうことが現象として表れるのかというのは実際にトレーニングをする、教えるということの中で研ぎ澄まされていきます。
ですから、教えたことのない人がコーチングだけをするというのはやっぱり難しいんですよね。新しく立ち上げたコンサルティングサービス(ストレイル)でも、ENGLISH COMPANYのトレーナーとしてティーチングの経験がある人がコンサルタントになるルートになっています。
英語学習のモチベーションについて
——「毎日歯磨きをする」くらい英語学習を習慣化するために「行動科学」を取り入れていらっしゃいますが、「行動科学」とはどのようなものですか。
ごく簡単に言えば、行動科学とは人の行動を分析して、法則性を見つけ出そうというような学問です。
——分析の仕方というのは、その人のライフスタイルなどを見たりするということでしょうか?
行動科学マネジメント®の日本における第一人者で、石田淳さんという方がいらっしゃいます。その方のチームの監修を受けて、「英語学習を続ける技術」というものを開発しています。
例えば1日1時間勉強する習慣を身につけたいとします。その時にまずは15分刻みで一日のスケジュールを振り返ってみるのです。すると、「何にもしてない15分間」のスロットがいくつか見つかるんです。
そのうち4つくらいを「とりあえずここは英語勉強できるな」というふうに決めて、学習していくと勉強が始めやすくなったりします。
すでにいま何かをやっていることをやめて、そこに英語の学習をはめる、ということではなくてなにもしていないところで取り組みを始めると言うことですね。
15分間あれば結構な事ができます。単語を覚えるとか、30秒のスクリプトの音読だったら30回くらいは取り組めます。
——なぜモチベーションではなく習慣化が大切なのでしょうか?
私たちが習慣化を大切にしているのは、英語の習得は3ヶ月で「完成」するというものではないと思っているからです。
3ヶ月間トレーナーが寄り添い激励して、「頑張れ!頑張れ!」としつこく連絡して、「とにかくこの期間は勉強だ」と続ければ3ヶ月間はできるかもしれない。だけどそのトレーナーがいなくなっても学習の継続はできるのでしょうか。
私たちは、卒業した途端に学習をやめてしまうような無理矢理な方法には意味がないと思っています。
ENGLISH COMPANYのサービスは独学で取り組めば1年2年かかる伸びを3ヶ月で達成してもらうというものです。しかし、大幅に伸びたからといって完成するわけではありません。
卒業した後も地道に学習を継続していただくために、習慣化は非常に重要だと考えています。
——3カ月の受講期間で、英語学習は習慣化されるのでしょうか?
そうなることを目指しますし、そう言っていただけることは少なくありません。「もう癖になっちゃいました」「やらないと気持ち悪い」みたいな感じですね。
例えば外から帰って手を洗うということを習慣にしている人は、手を洗わないと気持ち悪いと感じると思います。同じように、夜寝る前にいつも単語を覚える人は、今日はやるべきことをやらずに寝ちゃってるなという感じになります。そこは習慣化の効果だと思います。
岡社長について
——勉強を教える立場になりたいと思ったきっかけは何ですか?
小学生の時です。正直、小学校の勉強はつまらないなと思っていたのですが、塾に行かせてもらって、そこで先生ってものすごく面白いなと思ったのがきっかけです。小学校の頃から塾の先生になりたいと思ってました。
——仕事の一番のやりがいは何ですか?
やっぱり、皆さんに喜んでいただけるのが嬉しいですね。皆さんというのはスタッフも含めてのことです。「こんなふうに成果があったんですよ」みたいなことを報告してくれるときとても嬉しそうなんですよ。そういうのを見てるとこちらも嬉しくなります。
——ENGLISH COMPANYも含めてですが、スタディーハッカー様の今後のビジョンがあれば教えてください。
スタディスマート(学びに合理性を)が弊社のミッションです。より効率的な学びを広めていきたいと思います。
- インタビュアー:岡田ティナ
- インタビュー場所:株式会社スタディーハッカー 本社
ライター(詳しいプロフィールを見る)
10歳までをフィリピンで過ごした英語と日本語のバイリンガル。優れた英会話力を活かし、初心者が抱く英語の疑問を解消する「ペラペラ英語塾」の記事を担当。また、英会話スクールやオンライン英会話、英会話カフェ等を体験してのレビュー記事も担当しており、体験したサービスの数は30以上を数える。
最新記事 by 岡田 ティナ (全て見る)
- ネイティブ相手に今日から使える!meanの意味と使い方 - 2020年9月14日
- ネイティブ相手に今日から使える!belowの意味と使い方 - 2020年9月7日
- ネイティブ相手に今日から使える!weirdの意味と使い方 - 2020年8月31日